【決定版】MM理論とは何か?ファイナンスの基礎をわかりやすく解説

はじめに

企業の資本構成、すなわち「負債と自己資本の比率(Debt-Equity Ratio)」が企業価値にどのような影響を与えるか。この問いに理論的な回答を示したのが、**MM理論(Modigliani-Miller理論)**です。

本記事では、証券アナリスト試験を受験する方、大学・大学院でファイナンスを学ぶ学生、あるいは経営企画・財務担当のビジネスパーソンに向けて、MM理論の基本から実務・試験での活用までをわかりやすく解説します。


MM理論とは?──資本構成と企業価値の関係

1-1.背景と登場人物

1958年、フランコ・モディリアーニとマートン・ミラーの二人の経済学者によって発表された論文がMM理論の原点です。彼らは「企業の価値は資本構成によって変わるのか?」という古くて根深い疑問に明快な答えを与えました。

その結論は驚くべきものでした。

「完全市場では、資本構成(負債の多寡)は企業価値に影響を与えない」

この理論はその後、コーポレートファイナンス理論の礎となり、現代に至るまで多くの議論と発展を生んでいます。


MM命題Ⅰ:資本構成の無関連性

2-1.命題Ⅰの主張

MM命題Ⅰの結論は非常にシンプルです。

「企業の価値は、その企業が保有する資産(キャッシュフロー)によってのみ決まり、資金調達の手段(負債と自己資本の割合)によっては変わらない」

つまり、借金をしても、すべて自己資本で賄っても、企業が稼ぎ出すキャッシュフローが同じならば、企業価値は同じというわけです。

2-2.前提条件

この結論は、以下のような理想的な「完全市場」を前提としています:

  • 税金が存在しない

  • 破綻コストがない

  • 情報の非対称性がない

  • 投資家は誰でも同じ条件で資金調達・運用ができる

もちろん、これは現実には存在しない架空の世界ですが、「理論的な出発点」として重要です。


MM命題Ⅱ:自己資本コストは上昇する

3-1.命題Ⅱの主張

次に、MM命題Ⅱではこう述べられます:

「企業が負債を増やすと、株主のリスクが高まり、自己資本コスト(株主の期待リターン)は上昇する

負債を使えば、企業は安い金利で資金を調達できます。しかし、リスクが高まると株主はその分高いリターンを要求するようになります。

その結果、WACC(加重平均資本コスト)は一定のままという結論が導かれます。

3-2.式で見るMM命題Ⅱ(税金なし)

rE = r0+ D/E *(r0−rD)

  • rE:自己資本コスト

  • r0:レバレッジなしの資本コスト

  • rD:負債コスト

  • D/E:負債と自己資本の比率


税金がある場合:MM理論の修正

現実には、法人税が存在します。重要なのは、企業は負債の利息を費用として控除できるという点です。これがいわゆるタックス・シールドです。

4-1.命題Ⅰの修正(税金あり)

税効果を考慮すると、負債を使うことで節税ができるため、企業価値は次のように増加します:

VL=VU+TC⋅DV

  • VL:レバレッジありの企業価値

  • VU:レバレッジなしの企業価値

  • TC:法人税率

  • D:負債の金額

つまり、「負債を使えば使うほど企業価値は上がる」というのが、税金を加味したMM理論のポイントです。


MM命題Ⅲ:投資判断と資本構成は無関係

MM命題Ⅲは次のように述べています:

「投資判断は、資本構成とは無関係に、NPV(正味現在価値)だけで判断されるべきである」

企業が投資プロジェクトを検討するとき、「借入か自己資金か」といった資金調達の問題ではなく、「その投資が企業価値を増やすか(NPVが正か)」に基づいて判断すべき、というわけです。


現実世界ではどうか?──MM理論の限界と実務応用

MM理論はあくまで理論モデルであり、実務では以下の点に注意が必要です。

6-1.現実との乖離

現実の要因 MM理論が無視しているもの
法人税 本来は企業価値にプラス
財務困難コスト(破綻リスク) 負債を使いすぎると価値は下がる
エージェンシー問題 経営者と株主の利害不一致
情報の非対称性 資金調達方法がシグナルになる場合

そのため、最適資本構成(Optimal Capital Structure)という概念が登場します。これは、税効果と破綻コストのバランス点にあると考えられています。


証券アナリスト試験でのMM理論の位置づけ

証券アナリスト試験(日本証券アナリスト協会)では、MM理論は1次試験・2次試験両方で頻出です。

出題例(1次試験)

MM命題に関する次の記述のうち、正しいものはどれか?

A. 負債比率が上昇すると常に企業価値は下がる
B. 税金が存在しない場合、資本構成は企業価値に影響を与える
C. 税金が存在する場合、負債は企業価値を高める
D. 株主資本コストは負債比率と無関係である

正解:C

出題例(2次試験)

株主資本コストとWACCの関係を、MM命題Ⅱおよび税効果を踏まえて200字以内で説明せよ。

→模範解答

MM命題Ⅱによれば、負債比率が高まると株主のリスクが上昇し、株主資本コストも上昇する。一方、法人税が存在する場合、負債の利息に対して税金が控除されるため、税シールド効果が働き、全体としてWACC(加重平均資本コスト)は一定または低下することがある。つまり、株主資本コストはレバレッジにより上昇するが、税効果によりWACCは一定または低下し、一定の範囲内で資本構成の見直しは企業価値向上に寄与する可能性がある。

このように、理論の正確な理解と応用力が問われます。


実務での活用:財務戦略と資金調達方針

企業財務では、MM理論をベースにしながら、実務的には次のような意思決定が求められます。

  • 資金調達の手段選択(株式発行・社債・銀行借入)

  • WACCを下げるための資本構成見直し

  • 最適なレバレッジ水準の設定

これらの判断の土台として、MM理論の理解は欠かせません。

MM理論とWACCで考える最適資本構成


まとめ:MM理論は「資本構成を考える出発点」

MM理論は、「負債と自己資本のバランスをどう考えるか」という企業財務の中心的なテーマに、理論的な軸を提供してくれます。

  • 完全市場では資本構成は無関係(命題Ⅰ)

  • 負債比率が上がると株主資本コストも上がる(命題Ⅱ)

  • 税金を考慮すると、適度な負債は企業価値を高める

  • 投資判断はNPVで行い、資金調達手段には左右されない(命題Ⅲ)

ファイナンスの基本を押さえつつ、現実の不完全性とどう折り合いをつけるかが、プロフェッショナルに求められる視点です。


Comments

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

PAGE TOP